21世紀の啓蒙

S.ピンカー「21世紀の啓蒙(上下)」読了

上巻はデータを虚心坦懐に眺めると,我々の時代は昔よりもずいぶん良い時代なんですよ,ということをさまざまな分野について述べている.「ファクトフルネス」なんかにも同じようなことが書いてあったような気がする.下巻は,現代が昔よりマシになった,その原動力が啓蒙主義であることを述べ,トランプ系のアレな連中が言っている反啓蒙主義的(というか,はっきりと狂人的と言えば良いのに)見解に対して一つ一つ反論を加えている.

理性とか啓蒙主義に対して楽観的過ぎるような気もするが(これは以前読んだドイッチュの本でも感じた.本書にもドイッチュの本からの引用がある),大体において塾長が普段考えていることなのであっという間に読めた.宗教や特定個人への崇拝感情が人類の進歩の足を引っ張っているということはずっと塾長も感じていた.宇宙の片隅のちっぽけな惑星上に奇跡的に知性を持った生命体として生まれた我々が,人間的なあまりに人間的な神様なんかの創造物であるはずがないし,ちっぽけな惑星上に奇跡的に知性を持って生きているのだから,この宇宙についてより多くより深く知ろうとすることは人類の義務と言ってもいい.人類の歴史において,はっきりと進歩と言える普遍的業績を上げたものは,啓蒙主義とそれに付随する科学だけだ.正直なところ,科学や科学技術の進歩に反対する人々がいるというのが,塾長には全く理解できない.スマホもウォシュレットもない世界がそんなに素敵か?

著者は最後のところで,ニーチェをこき下ろしている.20世紀の独裁者がニーチェから大きな影響を受けているかららしい.しかし,ニーチェ自身は近代国家という制度そのものを軽蔑していたし,ドイツという(自分自身の)国のことも唾棄すべきものであると述べている.なぜヒトラーがニーチェから影響を受けたのかが全く理解できない.ニーチェの著作を読んでいなかったのだろうか.ニーチェの論理は破綻していて,そのせいで彼自身は発狂したと考えられる.もしかしたら,順番が逆なのかもしれん.いずれにしても,ニーチェをそんなに真面目に読むのは馬鹿げていると塾長は考えている.「女は子供を欲する.男はそのための道具にすぎない」という文章を読んでブチギレる人も,拍手喝采を送るような人も,頭がおかしい.彼の著作は,命懸けで書かれた壮大なギャグと見るべきで,どちらの読み方も誤読である.

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