高校物理

結構長い間高校生を教えていて、高校物理という科目が、他の科目に比べて特殊な位置にあるということがなんとなくわかってきた。もちろん、この特殊性は優秀な生徒さんが集まっている中高一貫校の子どもたちには当てはまらない。しかし、指導要領に従って従順な授業をする先生のもとで、従順に学んでいる良い子の皆さんにとっては、ことはそれほど容易ではない。

問題は、高校物理が高校数学の習熟を前提としている、ということだ。この「前提」というのは、指導要領的に、ということではなくて、学科の内容的に、ということである。具体的にいうと、三角関数、ベクトル、数学IIIの微積分がある程度以上わかっていないと、高校物理の授業を受けても何一つわからないのである。この点は、高校で学ぶ理科の他の科目、化学や生物や地学と全く異なる。そんなわけで、おなじ高校理科、という分類になっていても、普通の公立高校の生徒にとっては、最初のハードルの高さが全然違う。

それで、このような事情をさらに複雑にしているのが、学校のカリキュラム・シラバスを作っている教務の先生方が、この事情を全くわかっていないことである。近所の高校では、高校1年生から物理をやらせている。物理基礎だから大丈夫、と言いたいのかもしれないが、残念ながら大丈夫ではない。三角関数もベクトルもやったことのない無垢な生徒たちに、相対速度とか力の分解とかやらせていいはずがない。できるはずがない。そして、生徒たちはわからないのは自分がダメだからだと思って、物理を嫌いになる。ダメなのはカリキュラムであって、生徒たちではない。学校の先生方は、科目間の相関関係をきちんと把握した上でカリキュラムを作るべきだと思う。少なくとも、高校1年生の最初に物理基礎をやらせるというのが極悪非道であることを認識して欲しい。

じゃあ、数学IIIまでやってから物理をやれば全て解決なのか、という話であるが、それは残念ながらそうならない。なぜかというと、数学IIIまである程度以上のレベルで習熟している高校生は少数派だからだ。すなわち、数学がある程度できないと物理はできないが、そもそも数学がある程度以上できている生徒が少数派であるわけで、物理ができる生徒が少ないのは当然の結果である、ということになる。

数学がある程度できるようになってからのハードルはどこにあるかというと、それは基本法則が自明のものに見えないところにある。数学における公理、一番基本的なルールは、おそらく大部分の高校生にとって自明のものに見えると思う。しかし、運動方程式とか、クーロンの法則が自明のものに見えるような生徒は皆無だろう。もし、あれが自明のものに見えるなら、世紀を代表する天才と言っていい。ということで、数学とは違って、物理における課題は、基本法則を正しく使えるように訓練すること、これに尽きる。問題演習の意味が数学とは違う。複雑な問題や気の利いた問題は高校範囲ではほぼない。そうじゃなくて、解けて当然の問題たちを、基本に立ち戻って当然のように解けるようになることが目標なのだ。

そんなわけで、高校物理という科目が一般的な高校生にとって鬼門であることがわかっていただけたと思う。高校1年生に物理をやらせている公立学校の先生方には、カリキュラムを組み直すことを強く期待する。

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