虐殺器官
伊藤計劃「虐殺器官」読了
時代は近未来,米軍暗殺部隊に所属する「ぼく」は,どのような手段でかはわからぬが世界各地で内戦と大虐殺を引き起こしているとされるジョン・ポールなる人物を追っている.内戦のスプラッタな描写と,人間存在や社会倫理に関する内省的対話が交互に現れる.舞台が近未来で,ガジェットの類はSF的なのであるが,問題意識は我々の生きている2023年の世界のものと何も変わらない.なんか,ものすごく質の高いものをたっぷり食べて満腹って感じだ.生徒さんに薦めるかというと,スプラッタが派手すぎるので躊躇するな.以下引用.
「良心とは,要するに人間の脳にあるさまざまな価値判断のバランスのことだ.各モジュールが出してくる欲求を調整して,将来にわたるリスクを勘定し,その結果としての最善行動として良心が生まれる.膨大な数の価値判断が衝突し,ぎりぎりの均衡を保つ場所に,『良心と呼ばれる状態』は在るのさ.」
「社会の絶望から発したものを,システムで減らすことは無理だし意味がないんだよ.」