未踏の蒼穹
J.P.ホーガン「未踏の蒼穹」読了
惑星間航行を技術的に可能なレベルにまで持ってきた金星人が,数千年前に滅びた地球人類の研究をするために,地球(テラと呼ばれている)と月にある地球人の遺跡の発掘調査をする,というところから話が始まる.いったい地球で何が起きたのか,という謎解き要素と,地球人の攻撃性や統治システムについてのホーガンの疑問,考察がそこここに見える.
以下引用
「強欲、被害妄想、猜疑心、そして権力を持つ凡人の悲惨な同盟があらゆる場所を支配していた。(中略)だが、狂気を止めるためのあらゆる努力は、従順な大衆を導く盲信者たちの無知と野心の前では、無力だった。」
トランプみたいなのを大統領にする素質が我々にはあるということだ.
「自分の考えや理論を売り込もうとする人がいたら、料理人に対する時と同じように判断すべきだ。重要なのは、鍋から出てくるものであって、その人が何を入れると言ってるかではない。
投票する時は,その人が何を入れると言ってるかで判断しなくちゃならんのよね.
自分たちの望む通りに現実をねじ曲げると言ういつものやり方に従って、地球人はばかばかしいほど極端な方向へ走り、自分たちの恐怖や欲望や好き嫌いを、まるで宇宙がそれだけのために存在しているかのように、日々の人間の問題に関与し、欺き、褒美や罰を与えてくれる、様々な姿の神々に投影した。こうした信念に基づいて設立されたカルトは、社会統制の効果的な手段となることが証明され、少数が多数に対して権力を行使してそれを支配することを可能にした。多くの異星歴史学者が、カルトが説いた理想と現実にとった行動とのあいだにある矛盾に疑念を抱き、公言されていた信念が、どれほど誠実なものだったのか訝しむようになっていた。不思議なことに、そのことを気にしていた地球人はごく少数だったようだ。」
本当に不思議なことだ.
「指導者たちはほぼ例外なく、大衆にとりいってその機嫌をとったり、暴力と威嚇で権力を掌握したり、影響力の大きい少数派の利益を守ったりする能力以外には、価値ある学識、技術、才能を何一つ示していなかった。彼らを任命する制度が、ある地位に就くためには、その地位にある人物に求められるのとは正反対の能力が要求されるようなものだったので、蔓延したように見える犠牲や不誠実さに対して多数の非難の声が上がっていたのは、何の不思議もないことだった。」
ホーガンも書いているけど,他の職業であれば専門的知識のある奴が力を持つのに,政治の世界ではそういうことにはなっていないんだよね.そして,素人である我々一般庶民が,同じくズブの素人である議員さんや首長を選ぶという.現在の民主主義は確かに改善の余地がある.
