図書館の魔女
高田大介「図書館の魔女1~4」読了
タイトルからは魔法使い的なお話かと想像されるかもしれないが,架空の大陸や海を舞台にした,地に足のついた物語である.自然描写が精密かつ鮮やかで,塾長は基本的にそういう細かい描写を「うるさいべ」とすっ飛ばして読むことが多いのであるが(夏目漱石とか,ほんとうるさい),本書は大変読みやすくて全部読んでしまった.頭の中に物語世界の情景がありありと描けるくらいに生き生きした描写がなされている.
一の谷という国の中枢部には,図書館の塔のボス司書である魔女がいる.この魔女は頭脳明晰博識な女の子なのであるが,唖である.その図書館の塔に助手兼手話通訳として少年が派遣される,というところから話が始まる.言語学的な蘊蓄とマキャベリ的な知略,ところどころに出てくる科学技術が渾然一体となって物語を進めてゆき,久しぶりに物語世界に没頭するという経験をしてしまった.「家畜人ヤプー」とかウンベルトエーコなんかだと,蘊蓄を垂れているうちに本筋よりもそっちの方に重心が寄ってしまっているような気になることもあるのだが,この本に関してはその辺りのバランスが絶妙で,書籍の分類から集合論のパラドックスを仄めかしたり(ラッセルのパラドックスみたいな用語は出てきていないが),一の谷の敵国の将校の名前がもろにハンガリー系だったり(おそらく音楽家などの有名人からパクってる),随所に著者の「ワシ物知りです」が出てて楽しい.過去の偉人として挙げられている人名が,我々の世界線と同じものであったり,明らかに20世紀には到達していなそうな設定で集合論のパラドックスを魔女が知っていたり,色々ねじれててこれも楽しい.主人公天才設定のお話だと,主人公が全然天才に見えなくて萎えることがほとんどなのであるが,図書館の魔女は確実に塾長より頭がいいと思う.天才設定にするならこのくらいにしてくれないと.
そして何より,長い話を綺麗にまとめたのが素晴らしい.後日譚をゆったりとしたペースで丁寧にしめくくっており,物語全体の余韻を楽しみながら幸せな気分で読了することができた.
要するに,塾長はこの本に大変満足している.週末かかりきりで読んで本当に良かった.読みたい生徒さんには貸すよ.
