国家神道と日本人

島薗進「国家神道と日本人」読了

国家神道というと,なんだか昔からあるような気がしていたが,我々が知っているような形の国家神道はその萌芽がせいぜい幕末から明治維新くらいまでしか遡ることなく,ファシズムと結びついてガツガツやり始めたのは1930年以降満州事変が起きるあたりからということらしい.

本書による国家神道のおおまかな定義をまとめると,天照大神なる神的起源を持つ存在を始祖に持つ天皇と国民の間に神聖な絆があり,これに基づく王朝交代のない国家体制が続いており(万世一系の国体),国民は天皇への崇敬心を育んでゆくべきだ,そして皇室祭祀に参与しこのような国体思想基づく道徳を身につけるべきである,みたいな感じになる.このなかで,著者は特に皇室祭祀を重視しているようで,伊勢神宮および宮中三殿に鎮座する天照大神を頂点とし,全国の神社は伊勢神宮と皇室祭祀を核として組織化されて国家祭祀のシステムに取り込まれる,ということらしい.

現代日本に生きていると,このような呪術的方法論で近代国家をまとめることができるのかどうか疑問に思うが,あとの方を読んでみると当時の統治体制は以下のようになっていたらしい.

小中学および軍隊では「建前」としての天皇が徹底的に教え込まれ、大学および高等文官試験に至って「申し合わせ」としての天皇が初めて明らかにされ、「建前」で教育された国民大衆が、「申し合わせ」に熟達した帝国大学卒業生たる官僚に指導されるシステムが編み出された。軍部だけは密教(申し合わせの比喩)の中で顕教(建前の比喩)を固守し続け、初等教育を預かる文部省を従え、やがて顕教による密教征伐、すなわち国体明徴運動を開始し、伊藤博文の作った明治国家のシステムを最後にはめちゃめちゃにしてしまった。(引用終わり)

なるほど,これならわかる.要するに阿呆な大衆は建前で洗脳し,エリート層は天皇を利用して申し合わせで統治を行ったということか.いや,これは西洋でも同じことしてるよね.キリスト教会が大衆を洗脳し,王族や貴族がそれを利用し(利用され)統治するという,昔から見るあれだ.日本でも仏教と朝廷or幕府が同じようなことをしている.歴史はめぐる.そして,現代でも右派の下っ端の連中は「天皇陛下万歳」的なメンタリティを持ち,右派の上層部はそれを利用して他人をコントロールしようとしている.左派の下っ端は「天皇制粉砕」的なメンタリティを持ち,左派の上層部はそれを利用して他人をコントロールしようとしている.何この愚物の永劫回帰.

自然科学分野が世界の秘密をこれまでの人類史にないレベルで解明しつつある現代において,何万年前からなんの進歩もない政治的ゴタゴタに我々の生活が左右されることの理不尽たるや.いい加減に為政者というものが一般に素性の劣るものたちだという認識を我々は持つべきだ.彼らの仕事は我々の仕事の交通整理をすることであり,もちろん交通整理の警備員は必要な存在ではあるが,交通整理の警備員が我々の日常を左右するなどということはあってはならないことであろう.

新書はすらすら読めるようなものではないものが結構あるというのを知った.

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