人体600万年史
D.E.リーバーマン「人体600万年史」読了
先進国に住む現代人が,なぜ糖尿病や近視や虫歯のような慢性的疾患を抱えるようになってしまったのかということを,生物進化の観点から捉えよう,という本.キーワードはディスエボリューション(逆進化とか退行進化といったイメージだろうか)と進化的ミスマッチで,前者は疾患の原因となる環境をそのままにして対症療法のみに頼ることで,次世代以降にそのままその疾患を(文化的に)遺伝させるもので,後者は現代人の生活環境が,人類が長年かけて適応してきた環境とは異なるために,結果として適応ができない,ということを意味している.
糖尿や癌や心臓疾患はともかく,虫歯や近視や扁平足まで進化的ミスマッチであるらしいというのは興味深い.全然関係ないけど,塾長は結構きつい近視だ.めがねをつけるようになったのは高2の秋からだが,もっと前から近視っぽい感じはあった.中学校の身体検査でなぜ引っ掛からなかったかというと,ワシが検査を受けている時に後にいた奥田くんが「上,右,下」とか教えてくれてたから.これが中2の時のことで,おそらく他の学年でも同じようなことをしてくれた阿呆な友達がいたに違いない.高校に入る頃には間違いなく黒板が見づらくなり,そろそろ真面目に勉強でもしようかと思い始めた高2の秋にようやく初めがねをゲットしたわけだ.まあ,授業を真面目に聞いているような子供じゃなかったから,めがねをつけたところで大して生活は変わらんかったけど.
以下引用.
「私たちは健康になるために進化しているわけではないのである。(中略)身体のなかにはいくつもの適応がごちゃごちゃに詰め込まれていて、そのすべてにプラス面とマイナス面があり、いくつかは互いに衝突もするから、完璧で最適な単一のダイエットプログラムやフィットネスプログラムなんてものは存在しない。私たちの身体は、いわば妥協の産物なのである。」
私たちの人生も,いわば妥協の産物なのである.
「20世紀における小児科医学の劇的な成功は、予防医療こそが最良の医療であることの証しにほかならない。」
金もかからんしね.というか,未来のことを考えると,子供らに金をかけるのが一番費用対効果が高い.
「この百年のあいだに、人類はあまたのテクノロジーを開発して、桁違いの量の食品を生産してきたが、それらの食品はたいてい栄養的には貧しくて、豊富なのはカロリーだけだ。」
マクドが好きなAくん,これは君に対する警告だ.
「結局のところ,人々が太ってきた理由,とりわけ腹部に脂肪を貯めこむようになった理由の最たるものは,加工食品が過剰なカロリーを供給していて,そのカロリーの多くが,私たちの受け継いでいる消化器系では対応しきれないほどの量とペースで,糖−グルコースとフルクトースの両方− からもたらされていることにある.」
高校の時のサッカー部の友人に,へいまつと呼ばれていた男がいた.彼は少しぽっちゃりしていて,一年中ダイエットをしていた.しかし,へいまつはサッカー部の練習が終わると,「ああ,汗かいた」と言いながらコーラを一リットル一気飲みしていた.栄養学とか,何も知らない我々阿呆な男子高校生であっても,かれのダイエットが実を結ぶことがないことを確信していた.
「結局のところ,私たちがしてきたことは,人々をエネルギーの摂りすぎによる病気にかからせておきながら,そのエネルギーの流れを断たなくても病人を生かしておける環境を作り上げることだったのだ.」
これがディスエボリューションね.
「子供に批判的にものを考えさせないと知能の発育が阻害されるように,子供の骨や筋肉や免疫系に負荷をかけさせないと,要求にピッタリ見合うだけの能力がそれらの器官に備わらなくなるのである.」
これ,前半の方が重要な気がする.うちの生徒さんを見てると,学習内容だけじゃなくて,大人や社会や身の回りのことに対してあまりに無批判で従順なのではないかと思うことがしばしばなのだ.批判的というのは,文句言いということではない.というか,文句言いが世の中の和を乱す,という考え方がそもそも間違ってる.文句を垂れるのは,より良い方向性を模索するための必要不可欠かつ不愉快な手段であり,垂らされた文句を吟味して必要なものに関しては実行に移すことは,人類社会をより良くするための絶対条件だと思うぞ.
「この何世代かのあいだに,私たちは快適さと身体的快楽への切望から,多くの新しい驚異的な発明をなし,一部の実業家を大金持ちにしてきた.」
マクドの創業者とかカーネルサンダースのことかな.