湿度
湿度が上がると,弦楽器は鳴らなくなるとよく言われる.しかし,塾長は梅雨時に楽器が鳴らなくなると思ったことがない.
ただ,湿度が高い時にチェロを弾きにくくなるということは確かだ.一つ目は弓のこと.湿気で毛が伸びて毛を張りにくくなる.それに伴って,毛の弾性定数が小さくなって弓が実質的に弱くなる.この理屈は単純で,バネってのは長くなればなるほど弾性定数が小さくなるということだ.長さがk倍になれば,弾性定数は1/k倍になる.もちろんこれはバネの材質が同じだったと仮定した時の話で,水を吸った毛が乾いた毛と同じ性質であるわけではないが,まあよい近似ではあるだろう.そして,毛の弾性定数が小さくなるということは,弓全体の弾性定数も小さくなるということだ.弓はモデル的にいうと弓竿と毛が直列接続していることになっている.毛の弾性定数が小さくなれば,弓全体の弾性定数も小さくなる.実のところ,弓竿の強さを比較するには,同じクオリティの毛で,同じ温度湿度でしないと意味がない.いずれにしても,梅雨時は弓が弱くなるという感覚を持っている弦楽器奏者は多いはず.あと,スクリューをいっぱい回さなくてはならないので,フロッグの位置が乾燥期のときとはことなることになる.バランスのズレが気になる人もいるようだが,塾長的にはそれよりも親指の当たる部分の凸凹が変わる(毛が短いときは弓皮が当たるのであるが,毛が長くなると弓皮の端っこしかさわらなくて,明らかに親指の先の感覚がズレる)ことの方が気になる.最近は邪道によってこの問題は解決した.
もう一つの問題は,右手左手ともに指先がサラサラになりすぎて,左手はポジション移動先で止まらない,右手は弓を持つ手が滑るということ.梅雨時だとむしろ楽器がベタベタになると思う人もいるようだが,実際には楽器がベタベタになるのはせいぜい楽器を弾き始めて最初の30分くらいで,そこを超えて結露のバランスが取れるようになると,むしろ指先と楽器の間の摩擦係数が小さくなりすぎて,手の中にピッタリと弓や楽器が収まる感覚がなくなってしまう.右手も左手も不安定で,腹立たしいことこの上ない.
それで,この不快感を軽減するために数年前までは除湿機を使うようにしていた.しかし,一日中除湿機を使うわけにもいかない.なにせ,うるさいし電気代もえらいことになるし,夏場は暑すぎる.そして,練習する時だけ除湿機を使って60%くらいまで落としても,除湿機を切ればまた70%とかになる.練習のたびに湿度を大きく変えるのは楽器にもおそらくよくない.あと,くしゃみがよく出る.多分,何かのはずみで除湿機内部にカビが生えてしまったのであろう.これだと,チェロを練習するたびに部屋にカビを撒き散らかすことになる.健康に悪いことはしない方が良い.ということで,最近除湿機は物置に引っ越しなさったと.
そんなわけで,梅雨時であっても楽器の鳴り自体は気にならんが,それ以外のところで気になることは結構あると.早く乾いた時期になってほしい.