THE WORLD ACCORDING TO GARP

John Irving "THE WORLD ACCORDING TO GARP" 読了

Irving は"Owen Meany" を読んで以来2冊目になる.Irving を紹介してくれたのは,以前高校で働いていた時のALTの奥さんで「読みやすいし,ウィーンとかの話もあるからクラシック好きならいいんじゃない」みたいなことを言われた記憶がある.確かにこの作品にもウィーンは出てくるけど,クラシックは全然関係ないし,舞台のほとんどはアメリカだったりする.

この作品は,作家でありアマチュアのレスラーでもあるT.S.Garp の人生とその周りの人々や出来事を描いている.時代的には第二次世界大戦末期から戦後の,日本でいうところの高度成長期あたりのお話である.40年以上前に書かれたにも関わらず,現代的な問題がこれでもかというほど鋭敏に,そしてこれでもかというほど露悪的に描かれている.「清く正しい」読者は最初の数十頁で読むのをやめる可能性が高い.純粋な意味で「善き人」はほとんど登場せず,誇張されたキャラクターと,あるはずのない世界が展開しているにも関わらず,なぜか生々しくリアルであるというのは,前に読んだOwen Meany の時と同じだ.ある意味600ページ全編にわたってクソが撒き散らかされているのに,最後に話があるべきところに,そして説得力を持って収まるのがすごい.

そういえば,20世紀を代表するチェリストであるJ.Starker の自伝(ちなみに,来月塾長たちが公開レッスンを受講する練木繁夫先生は,長年にわたってStarker の同僚であり友人であった)のタイトルが "The World of Music According to Starker"であるのは,まず間違いなく本作のタイトルをもじったものであろう.この自伝の中で,Starker の同僚があまり名誉とは言えない死を迎えた描写があるのだが,Garp の中にも,Garp の親類があまり名誉とは言えない死を迎えた描写があって,Starker はそれを真似したんじゃないかと塾長は疑っている.あと,"Garp"の中には,Garp の書いた小説内小説?みたいなものが入っていて,これもStarker の自伝中にあるStarker の書いた短編小説(!)に対応しているように見えるのだ.

Garp hated his mother's "everyone" language most of all. A case, he thought, of carrying democracy to an idiotic extreme.

"everyone" とか「国民」とかってのは,人が自分の意見を説得力を持って述べることができなかったり,自分の狭い世界を正当化したかったり,自分の方にかかる責任を背負い切ることができそうにない時に使う言葉だ.民主主義というよりは,責任転嫁の語法なんじゃないのか.

The psychiatrist approached the mess without proper respect for the mess, ... The psychiatrist's objective was to clear the head; it was Garp's opinion that this was usually accomplished (when it was accomplished) by throwing away all the messy things. That is the simplest way to clean up, Garp knew. The trick is to use the mess - to make the messy things to work for you. 

これは至言ですな.ゴタゴタは目の前にあれば邪魔だけど,全然ないとそもそも何かをしようとすることがなくなっちゃう.

There was more than a hint of distaste in Roberta's references to homosexuals, and Garp thought it strange that  people in the process of making a decision that will plant them firmly in a minority, forever, are possibly less tolerant of other minorities than we might imagine. 

これはよくわかる気がする.要するにマイノリティにおいて大事なのは,自分の属するマイノリティだけが意味を持つってことだ.何かの主義を持つということは,だから馬鹿げたことなのだ.

He wrote once that a novel was "only a place for storage - of all the meaningful things that a novelist isn't able to use in his life." 

小説家にしか思い浮かばん言葉ですな.

下にあるのは去年の最新作.900ページくらいあるので,読み始めるには覚悟がいる.しばらくは積読状態だな.

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