物理ができまへん
石原学舎で10年以上教えてきて,他の科目に比べて物理の出来が統計的に見て明らかに悪いのがはっきりしてきた.最初のうちは「たまたま物理が苦手な生徒さんが多いんだろう」くらいの感覚であったが,最近は科目としての性質と,学校での扱い方の両方に原因があるのだろうという確信を持ちつつある.ちなみに,物理の出来が悪い,と言った時に対象としているのは,公立学校(あるいは一部の私立高校)で検定済み教科書に従って学んでいるという生徒さんたちのこと.いわゆる本格的な進学校に関してはその限りではない.
科目としての性質で特徴的なのは,使っている道具が算数ではなく高校レベルの数学であるということ.三角関数は当たり前のように使えなくてはならないし(数学の授業ではあまり真面目にやらない,和積公式などもすらすら使えなくてはならない.もちろん合成なども),ベクトルも考えずに使える程度には習熟していないといけないし,微積分についても,ある種の商を見た時に微分だとわかり,ある種の和や図形の面積をみたときに積分がすぐに頭に浮かぶ程度には習熟していなくてはならない.公立中学校で教科書通りの進度で学んだ,普通の能力を持った生徒さんが,高校入学後にこの程度の数学力を身につけるのは実は結構大変であるというのが最近わかってきた.つまり,ある程度高校数学を学び,それに馴染んだ後でないと高校物理は理解も計算もできないのだ.化学や生物や地学で使うのは算数レベルの計算なので,その点でハードルの高さが物理とは全然違う.
学校での扱い方の問題としては,一高などだと一年生で物理を履修するということがある.これはもう冒涜的というか犯罪的なカリキュラムで,どのような大人の事情があろうと許容することはできない.先に書いたように,学ぶ順番が違う.理数系科目に疎い可哀想な教育委員会あるいは教務担当の人にわかりやすく教えてあげると,古典文法をまったく学習していない生徒に,行き当たりばったりの解釈で源氏物語を読ませるようなものだと言えばわかってもらえるだろうか.確かに,数学に習熟するまで待っていると,物理にかける時間が減ってしまうという問題点があり,解決策がすぐには浮かばない.物理の時間を数学に置き換えて数学の進度をパワーアップし,一通り必要なことを終えたら数学のコマ数を減らして物理のコマ数を増やすみたいなことならできるのではないか.いずれにしても,現行の公立学校での物理の学習は,かけた時間がほぼ全て無駄になるような無意味な時間になっている.どうにかしなくてはなるまい.
駿台だか河合塾だかの物理の最初の授業で「高校で学んだ物理は全部忘れてください」と言われるという話を聞いたことがある.どの高校で学んだかによって話は変わるが,少なくとも「公立高校で学んだ物理は全部忘れてください」という命題は真だと思う.現役の高校生には,「公立高校で学んだ物理は,石原学舎にいる間は全部忘れてください」と言いたい.