指先
弦楽器をやってる生徒さんが「左手のピチカートのせいで指先がボロボロになって痛い」と言っていた.
弦楽器は左手で音を作るので,指先の状態は結構重要だ.塾長の場合,指先に抱えた問題点が二つある.ひとつは爪が剥がれること,もう一つは指先の汗によって摩擦係数が極端に大きくなって事実上まともなシフトができなくなることで,どちらも大変困っている.
爪が剥がれることについては,練習している曲によって状況が随分違う.バッハのような,原則的に低いポジションだけ使う曲を練習していれば爪が剥がれることはまずない.しかし,今回のショパンのように,ハイポジションを多用するような曲の場合,人差し指と中指の爪が剥がれやすくなる.チェロをやっている人ならわかるが,ハイポジションで安定的な押弦をしようとすると(そんなことしなくても音は出る,という人もいる),爪が剥がれやすい角度で押さえることになる.少しでも剥がれると,まともに弦を押さえることはできない.我慢すればいい,ということにはならないのが残念なところ.例えば,変なものを食って腹が痛くなった場合,我慢して日常生活を送ることは可能だ.しかし,爪が剥がれた状態で押弦しようとすると,弦に触れた瞬間に指先に刺激が走って反射的に指が弦から離れようとするのだ.これは爪が剥がれた経験のある人にしかわからない.本番直前で爪が剥がれたときの絶望感は筆舌に尽くしがたい.本番でまともに弦を押さえることができなくなるから.
汗による摩擦係数の増大も大きな問題だが,数年前に友人から塩化アルミニウムを塗布するという多汗症の治療法を教えてもらってからは随分良くなった.今回も三週間ほど前から毎晩塩化アルミニウムを左手指および,左手指が触る可能性のある手のひらの部分に塗布し,その後ビニール手袋をしてから寝るようにしている.
ちなみに,爪が剥がれることは,指先の肉が爪の上にくるような,カエルの指みたいな素晴らしい指先を持った人には全く関係がない.うちの生徒さんの中にも,弦楽器やっていないのにそういう恵まれた指先を持った子が何人かいて,本当に羨ましい.弦楽器を弾く上での肉体的才能の一つに,カエル型の指先があると言ってもいいだろう.ものすごく安定した押弦ができるし,爪が剥がれる方向に力が働くこともない,本当に羨ましい肉体的特徴だ.
塾長の抱えたこのような問題を共有している人がいないかとネットで調べたこともあるが,まともな結果はヒットしない.ネット上にある情報は塾長に役立ったことがほとんどない.