LIKING WHAT YOU SEE:A DOCUMENTARY
Ted Chiang "LIKING WHAT YOU SEE:A DOCUMENTARY"読了
T.Chiang の短編集"STORIES OF YOU LIFE AND OTHERS"から,最後の短編.今流行りのルッキズム(見た目で差別をするのはいけませんよ,という,新たなタイプのpolitical correctnessのこと.欧米の暇な連中はこういう変な流行にハマるのが好きなようで)をテーマにしたお話.といっても書かれたのは20年前で,なんだか先見の明があるなあというか,著者自身が欧米の文化人だから彼ら特有のそういう思考パターンをよく知っているなあという感じ.
形式としては,複数の人々へのインタビューをまとめた記録という形態をとっていて,それぞれの言うことが全く反対であるけれどもそれぞれにそれなりに説得力があるという,厄介な(というか,議論しても多分意味がない)テーマを扱っている.時代は多分今よりも少し未来で,脳神経を直接いじる機械(calli とかspexとか書かれている)を装着することで,人の顔の美醜がみんな同じように見えるようにすることができる世界を描いている.個体識別はできるっぽい.そのような世界において,美しさが失われる,失われたと主張するグループと,表面的な美しさに惑わされて中身を見ないのは倫理的に間違っている,主張するグループが論戦を戦わせている.どちらの主張もそれなりに説得力があり,以前紹介した本にあった「理屈とセロテープは何にでもくっつく」というセリフを思い出してしまった.どうでもいいことについての議論に血道を上げる人々がいて,その道楽に付き合わされて善良な一般市民が振り回されるのは本当に馬鹿馬鹿しい.SDGsとかLGBTとかルッキズムとか,今流行ってるのはそんなとこか.