英語の歴史から考える英文法の「なぜ」

朝尾幸次郎 「英語の歴史から考える英文法の『なぜ』」読了

英語を教えていると,生徒さんから「なぜそのような言い方をするのか」という質問を受ける.しかし,言語というものは誰かが,あるいは神が絶対的な規則を決めたものではないので,「なぜ」という問いにはそぐわない対象である.なんとなく歴史的な事情からそうなった,としか答えようがないのだ.したがって,これまで塾長は「なぜ」という質問を受けるたびに「昔のイギリス人に聞いてください」と答えていた.無責任ではあるが,それ以上の答えを塾長は持たない.

この本は,「なぜ」に対して歴史的な経緯の解説をするという体裁になっている.古英語から中英語,近現代英語と移り変わっていく中で,どのような歴史的事件があり,それに対応して英語のどこが変化したのか,ということを説明している.

例えば,元々英語の名詞には格がたくさんあり(王を表すcyning には単数複数のそれぞれに主格・対格・属格・与格があり,合計8つの格があった.名詞ひとつで,現代日本語で言うところの名詞+格助詞の役割を果たしていたのだ),そのおかげで名詞は常に助詞を伴っているようなことになっていた.したがって,語順に関して現代英語に比べてはるかに柔軟だったのだ.しかし,その後,デーン人の侵入によって複雑な格変化(これを屈折と言うらしい.国文法で言うなら活用か)が落ちてゆき(外国人であるデーン人が格変化を正確に覚え切るのは困難であったのであろう),その結果語順が固定化していったというのは大変興味深い.他にも「へえ」と思うような記述が多く,非常に楽しめた.第2弾も購入してあるので,暇ができたら読み始めることにしよう.

ひとつ注意しなくてはならないのは,このような歴史的雑学があっても英語ができるようにはならないということ.英語が苦手な中高生は,つべこべ言わずに基本的な文法事項の反復練習をし,単語を可能な限り詰め込むことをお勧めする.授業中の雑談用に学校の先生が読むのはありかも.

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